~現在も保存活用される大正ロマン~
<建築家>薬師寺主計
奨農土地株式会社は、倉敷を中心に活躍した実業家大原孫三郎が、農業研究のための講習所や図書館などの事業展開に向けて、土地不動産を管理するために設立した法人で、同社の本社事務所として、後に大原美術館などを手がける建築家、薬師寺主計氏が設計した木造2階建ての建物です。旧大原家住宅と倉敷川を挟んだ正面、大原美術館の北西隣に位置しており、今橋という橋が2つの建物を結ぶように架かっています。(薬師寺氏については「大原美術館」参照)
建物外部はモルタルによるドイツ壁仕上げで、上げ下げ窓が設けられ、道に面する部分には腰の高さまでレンガが積み上げられており、屋根は瓦葺きといったとてもシンプルな外観となっています。
大原孫三郎の子息總一郎による「美術館来訪者のための休憩施設を」との提案を受けて、現オーナーの母が喫茶エル・グレコを開業しました。壁全面につたう蔦(ツタ)をオーナーが大切に育て、今では美観地区に四季の彩りを添えています。エル・グレコという名前は、大原美術館に展示されている絵画「受胎告知」の作者の名前から名付けられたようです。喫茶室にはこの絵画の模写が掛けられており、建設当時の大正ロマンが感じられます。ちなみに、今橋は、皇太子(後の昭和天皇)の行啓にあわせて架けられたものですが、これも薬師寺氏が設計しており、石橋に見えますが、本体は鉄筋コンクリートで出来ています。