~岡山駅前の街並み形成の先駆け<岡山高島屋ビル>~
<建築家>村野藤吾
この建築物は、文化勲章を受賞した建築家、村野藤吾氏が岡山県において唯一手掛けた作品で、岡山高島屋ビルとして竣工し、そのまま岡山高島屋としてオープンしました。岡山駅東口の駅前広場に立つとまず目に飛び込んでくる、街の顔となる建物の一つです。
まず注目すべき点はファサード(建物正面の外観)です。外壁面は当時先進的であった工場生産されたPC(プレキャストコンクリート)版を現場で取り付ける新工法により、PC版を縦方向に積み上げ、横方向は間隔を空けて幅の狭い窓が縦に連続して設けられ、垂直ラインを強調したデザインとなっています。PC版は中央部で丸くへこんでおり、凸凹が世界平和記念聖堂(広島市)などに見られる村野建築の特徴である独特の陰影を生み出し、窓に設けられた小さな円形のバルコニーは人々の視線を集めるアクセサリーとなって、ファサードを豊かな表情にしています。
さらに注目すべき点は、この建築物が、岡山市が1971年(昭和46年)から取り組みを始めた、市役所筋の両側に面する建物のセットバック(外壁を歩道から一定距離下げること)の第一号となったことです。売り場面積を重視する百貨店の性格上、実現までにはいろいろ協議もあったそうですが、最終的には設計変更し、1階外壁を歩道から5mセットバックし、アーケードとして歩行者に快適な歩行空間を提供しました。
村野氏は、街路などに面する高層建築のファサードは、その前を通りすぎる人々にどのような視覚的、心理的な効果をもたらすか、どんな気持ちにさせるかという点を非常に強く意識し、親しみが感じられ、街が嫌にならない建築をつくることを心がけていました。
岡山高島屋はそんな村野氏の理念が強く反映された建築であり、また、現在の岡山駅前及び市役所筋の街並み形成の先駆けと言えるのではないでしょうか。